大判例

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津地方裁判所 昭和24年(行)24号 決定 1949年11月28日

原告

若林二郎

外十四名

被告

名古屋郵政局長

被告

東海電気通信局長

主文

本件を名古屋地方裁判所に移送する。

申請の趣旨

原告等訴訟代理人は被告小畠富穂が昭和二十四年八月十二日に原告若林二郎以下十三名に対してなした免職、被告吉沢武雄が右同日に原告内山はな以下二名に対してなした免職は夫々無効であることを確認する。

訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求める。

事実

原告若林二郎、同赤塚宋一、同阿部幸三郎、同福田静男は津郵便局、同寺本久義、同伊藤幸吉は桑名郵便局、同渥美義一は白子郵便局、同松原勝美は上野郵便局、同古布齋松は山田河崎郵便局、同源高司、同東喜三男は上野郵便局、同三宅康夫は桂城郵便局、同荒川幸仁は深井沢郵便局勤務の郵政省職員でいづれも九級職以下の三級官或は雇であるが昭和二十四年八月十二日被告小畠富穂によつて免職され、その旨各所属局長を通じて通告された。原告内山はな、同三宅和子は津電話局勤務の電気通信省職員で前同様の三級官或は雇であるが前同日被告吉沢武雄によつて免職され、その旨所属業務長を通じて通達された。然し被告等は行政機関職員定員法(以下定員法と略称する)による免職であることを明かにしたのみで何故に原告等が整理の対象とされたかを明かにせず定員法附則第五項を口実にしているのである。しかしながら整理に当つて郵政兼電気通信大臣の声明した方針によれば「公務員としての資質、次いでは技能、知識、肉体的諸条件特に通信業務に対する協力の程度」を基準とし「とくに協力の程度」を重視すること「その認定の方法は地方では各郵政局長、各地方監察局長及電気通信局長の認定に一任され優劣をつけがたい場合は勤続年数短く、勤務成績良好でない者を整理の対象とする」ことを明示している。後述のように定員法自体旧日本的専擅を上部官僚に許容したもので憲法違反のものであるが、被告等は右方針の範囲内においてのみ整理対象の認定権を有するに過ぎないに拘らず、何等この基準に該当しない原告等に対し被告名義の免職辞令を出したのである。従つて先づこの点において免職は効力がない。原告等はいづれも郵政、電気通信両省勤務の職員で結成した全逓信労働組合三重地区の役員であり若林二郎以下四名は専従者としての休暇を得て組合の仕事に専従しているもで組合員大衆の総意に従いその利益を守ることに専念し政府の反人民的反勤労者的施策に対しては固より法律の許す限りの抵抗をこころみてきたし、通信事業の復興について懸命の企画と努力をつづけてきたのである。然るに政府と上部官僚はかれらの旧伝統である専擅支配の復活と組合の弱体化のために良心的組合幹部の狙い射ち的首切を企図してこの専従者免職を実行したのである。これは言うまでもなく憲法第十四條、国家公務員法第二十七條の平等の原則並に同法第九十八條第三項の規定に反した無効の免職である。現政府のフアッシヨン的弾圧政治は日に日につのつているのであるが、一面巨大な国費をもつて独占資本の利益に奉仕しつつ中小の資本以下あらゆる勤労人民が生活の破綻と失業とにあえいでいる時何等の失業対策をたてず、何等の社会的保障を考慮せずして職員の大量首切のために定員法を制定した。これは実に周知の現下の社会状勢下において公務員とその家族に餓死を強制するやり口であり、憲法の保障する生存権と生活権とくに第二十五条の健康的な且つ文化的な最低生活の権利をジユウリンするものである。しかも定員法附則第五項では国家公務員法第八十九条以下の不服権を剥奪し第八、九項で公共企業体労働関係法第八条、第十九条の団体交渉並に苦情紛争の権利を剥奪している。国家公務員法等の憲法違反はここに争点としないが、憲法前文は明確に専制と隷従を排除し、幸福追求の権利(第十三条)平等の権利(第十四条)文化的最低生活権(第二十五条)勤労権(第二十七条)団結権(第二十八条)等の保障規定はいうまでもなく政府の専擅を禁圧し人民の自主的な生活の防衛権を高調したものである。政府の職員といえども固よりこの保障から除外さるべき理由はない。従つて国家公務員法その他のその意に反して免降職されない権利の規定及びかかる処分に抵抗する権利の規定はこれらの法律によつてはじめて与えられたものでなく、憲法の精神と諸規定の適用的規定にすぎないのである。国家公務員法その他は憲法上の多くの権利を無視した違憲の法律であるが定員法は国家公務員法と公共企業体労働関係法にわずかに残された憲法上の権利さえ剥奪した憲法違反の法律である。原告等は何等の正当な理由なく憲法上の最低生活の権利を無視し且前示憲法の諸規定並に精神に反し、その意に反して定員法により免職された。これは定員法が無効であると共に無効な免職である。要するに政府の意図の主要な一半ははじめから定員法によつて、懐柔しがたい良心的な組合員と組合役員の首を切るにあつた。従つて内実は理由のいえない首切をやらねばならぬから予め国家公務員法第八十九条の証明書交付の規定等をないものとし、しかも全く露骨な専擅があまりにも専制的反憲法的であるのを糊塗するために、「整理方針」や「準則」を発表したがその中には多分の強弁や附会の余地をたくみに残している。もし本当に公正な理由の免職なら人を飢餓に突落しておいてその理由を具体的にいえない筈はない。問答無用の首切はもともと反動のフアシストの御家芸であるが、本件の免職が「整理方針」にも当らないのはこの故であり、政府の意図と共に定員法が憲法違反であり、之に基く免職が憲法違反であることは明白であるといわねばならぬ。故に請求趣旨のような判決を求めるため本訴に及んだ次第であると述べなお本件は行政処分の無効確認を求める訴であつてその取消を求める訴ではない。尚被告等はいずれも職員の任免権を持ち且その権限に基いて原告等の免職を発令したのであるから同人等を被告としたと附陳し、被告等の抗弁に対し行政事件訴訟特例法第三条の規定は管轄を定めたものでなく行為をした官庁自体が被告となることを定めたものに過ぎないから被告等に当事者適格がないとの主張はあたらない。又地方郵政局及び郵便局は郵政省の地方機関であり、地方電気通信局、同部、同管理所、同取扱局は電気通信省の地方機関であり、夫々その事務に関連する範囲に於て任免、分限、勤務成績の評定及び記録、人事記録の作成及び保管、職員の定員に関する事務の一部を分掌する。従つて各郵便局長及び三重電気通信部、津電気通信管理所、津電話局等の長はその統督する職員の範囲に於て任免の事務に関与することが明であり、各地方機関が権限に基いてこれ等の事務を分掌する限り民事訴訟法第九條に所謂事務所を形成すると述べた。(立証省略)

被告両名訴訟代理人は原告等の請求はこれを棄却する。訴訟費用は原告等の負担とするとの判決を求め答弁として原告若林二郎外十四名は被告等が昭和二十四年八月十二日に、原告等を免職処分に附した該行政処分の無効確認を求めているが右無効の確認権は処分庁たる被告等に帰属するものでなく国に帰属しているものである。何故ならば確認権が権利である限りその権利主体は国であるのは当然であるからである。原告等が求めている確認の訴は行政事件訴訟特例法第一条に規定する「その他公法上の権利関係に関する訴訟」に該当する所謂当事者訴訟であつて違法な行政処分の取消又は変更を求める抗告訴訟ではない。従つて抗告訴訟に於てのみ特例として認められた右特例法第三条の適用がないのであるから被告等は当事者適格を有しない。又仮に本件が違法な行政処分の取消を求める趣旨であつても前記特例法第四条により管轄裁判所は被告たる行政庁の所在地である名古屋地方裁判所である。よつていづれよりするも原告等の訴は不適法のものであると述べた。(立証省略)

理由

要するに本件は、被告等が行政機関職員定員法に基いてなした原告等に対する免職処分が憲法及び国家公務員法等に違反し無効であるとの理由のもとにこれが行政処分の無効確認を求めるものである。よつて考えてみるにおよそ違法なる行政処分の無効確認を求める訴訟とその取消又は変更を求める訴訟との間には、いやしくも行政処分が形式上存在するものなる以上、その性質上の差異はないのであつて、いずれも行政処分の違法を攻撃してその無効の確定を求める点においては共通の性格を有するものであり、両者の相異は単にその対象とされている行政処分の瑕疵の軽重如何により判決による無効確定の効果が前者においては確認的であり後者においては形成的であるというに過ぎないものなのである。従つて無効確認訴訟を当事者訴訟として狭義の公法上の権利関係に関する訴訟の原則にのみ服せしめず行政事件訴訟特例法中の取消訴訟に関する規定はその性質に反しない限り無効確認の訴訟についても類推適用すべきが妥当である。果して然らば行政処分の無効確認を求める訴訟においても同法第三条、第四条を類推適用してその処分庁を被告としその処分庁の所在地の裁判所をもつてその専属管轄とするのが妥当と考えられる。よつて本件も亦被告等が原告等を免職する権限を有し(この権限あることは成立に争なく当裁判所においても真正に成立したと認められる乙第一、二号証によつて認められる)而してその権限に基いてなされた原告等の免職処分の無効確認を求める訴訟であるから本件はその処分庁である被告等を被告としその所在地たる名古屋地方裁判所の専属管轄に属するものというべきである。よつて民事訴訟法第三十条第一項により主文の通り決定する次第である。

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